「とても深刻です。」
そのように切り出したことをはっきりと覚えています。ちょうど1年前、動機づけ診断の結果をお母様に報告しました。診断を受けたのは、当時中学1年生のMちゃんです。体験授業で受けた動機づけ診断の結果は非常に深刻なものでした。診断結果が示す通り、Mちゃん本人からはほとんど意欲が感じられませんでした。表情に力が無く、発言は投げやりでした。進級が危ういほどの状況※であるにもかかわらず、Mちゃんからは状況改善の意思がまるで感じられませんでした。(※Mちゃんの通う中学校は、留年の規程があるそうです。)勉強を、どこか他人事としてとらえているかのようにすら感じられました。難しい指導になる。そう予感しました。
お子様が勉強に対する意欲を見せないとき、多くの親御様が統制を強められます。「しないのならば、させる。」当初、Mちゃんのお母様もそのようにお考えでした。そのため、Mちゃんを強力に引っ張ってくれる塾をお探しのようでした。そこで、そのような時に取りうる策はさせるだけではないことをお話ししました。Mちゃんの動機づけが改善すれば、Mちゃんが自分から学習を改善しようとすること、そして、動機づけを改善するためには自律性支援が大切であることをお話ししました。(参考:動機づけについて)
お母様は、Mちゃんの成績に大きな不安を感じられると同時に、やる気のなさをとても気にされていました。そのためか、やる気、すなわち動機づけを改善することが大切であることをご理解くださり、自律性支援を受け入れてくださいました。自律性支援は少し難しいことです。最初はうまくいかないこともあったようで、たびたびご相談くださいました。「私が未熟なんですね。」そのようにこぼされることが何度もありました。また、お勧めした本ばかりか、その関連書籍まで読まれたりもしたそうです。Mちゃんのために、お母様ご自身が一生懸命に変わろうとされているのを感じました。
そんなお母様のご支援のためか、Mちゃんは変わっていきました。入塾から3ヶ月ちょっとたったあるテストの前のことです。Mちゃんは自分から塾に質問に行きたいと言ったそうです。そんなことは初めてだと、お母さまは大変驚かれていました。それ以降、Mちゃんはどんどん変わっていきました。学校行事で疲れたり帰りが遅くなったりしても、遅刻せずに塾に行きたいと言うほど積極的に塾に来るようになりました。また、再テストが多かった学校の課題テストは、ほとんど一発合格するようになりました。そのことで、学校の先生にもよく褒めてもらえるようになったそうです。さらに、テストが終わった後であっても、分からなかった問題について教えて欲しいと言うようにもなりました。
私たちはお母様と共に、Mちゃんの動機づけを改善することに注力してまいりました。Mちゃんを行動させるための圧力は全くかけていませんが、それでもMちゃんの成績は全体的に上昇傾向にあります。二学期の成績は、一学期に比べて17科目中14科目が上昇しました。それはMちゃんの動機づけが改善し、Mちゃんが自ら行動を起こすようになってきたからだと思います。成績を改善するためには、自分が行動すべきだ。そのことをMちゃんは受け入れつつあるのです。つまり、学習の責任は自分にあることを、受け入れつつあるのです。
Mちゃんの動機づけはまだまだ改善の途上です。ただ、1年前とは全く違うMちゃんの真剣な表情や明るい笑顔に、これからのさらなる成長を確信しています。