テストでやる気はどう変わる?

どんな塾?

「もともとはリスニングの苦手を克服するために始めたのに、いつの間にかリスニングの苦手を他でどうカバーをするかを考えるようになってしまったんですよ。」

先日、当塾の大学院生講師Hくんが、TOEIC(国際コミュニケーション英語能力テスト)についてこのように言いました。さらに、TOEICを受け始めてから、英語の勉強にだんだんと苦痛を感じるようになってきたそうです。この話を聞いて、自身の過去の体験が頭に浮かびました。

私は社会人になってから趣味で中国語を学んでいたことがあります。学習を始めてから数年の間、日々の学習がとても楽しいと感じていました。「こんな言い方するんや!」とか、「自然に発音できるようになってきたぞ!」と、日々の発見と上達を本当に楽しく感じていました。わざわざ片道50分もかけて通っていた中国語会話教室では、「こんなにやる気のある生徒は、なかなかいないですよ!」と驚かれるほどでした。

学習を始めて3年ほどたったある日、力試しにHSKという中国語の試験を受けてみようと思いました。試験に申し込み、良い成績を取るために頑張るぞ!と意気込んだのを覚えています。ただその後、どういうわけかだんだんと勉強がつまらないと感じるようになっていきました。試験の結果は思っていたよりも良かったのですが、次はもっと頑張ろう!とは思いませんでした。大きな違和感を感じ、それ以上受けてみようとは思いませんでした。そしてそれから程なくして、中国語の勉強をやろうとは思わなくなりました。

私の心に何が起きたのか、当時はよく分かりませんでした。しかし、モチベーションへの理解が深まった今なら分かります。内発的動機づけが損なわれたのです。「楽しいから、学ぶ!」そんな動機づけが、内発的動機づけです。この内発的動機づけが、私の心から損なわれてしまったのです。

内発的動機づけが高まったり低まったりすることには、2つの感覚が関係しています。1つは自分がうまくできている感覚、もう1つは自分でコントロールしている感覚です。これらがどちらもしっかり感じられるとき、内発的動機づけは高まります。一方、これらがどちらも感じられないとき、内発的動機づけは低まります。2つのうちどちらか一方だけが感じられ、もう一方が感じられないときは、より顕著な一方に影響されます。(認知的評価理論)

私の場合、テストを受けることによって自分でコントロールしている感覚が低まったのだと思います。テストを受けるまでは、何を学ぶかを自分で決定していましたし、当然期限などありませんでした。自分の興味の赴くままに学んでいました。しかし、テストで好成績を修めるためには自分の興味に関係なく、そのための勉強をテストの日までにしなければなりません。そんなプレッシャーが生じたことで、自分でコントロールしている感覚が低まり、そして、内発的動機づけが損なわれたのだと思います。

もちろん、テストを受けたからといって必ずそうなってしまうわけではありません。例えば、良い点数をとるぞ!とそれほど強く思わなければ、プレッシャーを感じることはなかったはずです。きっと私は良い点数を得ることに目が眩んでしまったのだと思います。私にとって中国語で良い点数をとることには、実際何のメリットもありませんでしたが、それでもとても大きな魅力に思えました。そう思えたのは、学生時代を通して点数の価値が心に刷り込まれていたからなのかもしれません。

内発的動機づけが損なわれた理由を知って、テストを受けたことを悔やみました。わざわざテストなど受けなければ、もっと長く楽しんで学んでいたかもしれなかったのです。もちろん短い期間だけで見ると、テストを受けたことで能力は大きく伸びたのかもしれません。しかし、その短期的な伸びと引き換えに、私は長期的な成長の源泉を枯らしてしまいました。テスト前の数ヶ月ではちょっとしたプラスにはなっても、人生全体では比べ物にならないぐらい大きなマイナスになってしまったと感じています。

Hくんの心でも似たようなことが起きているのだと思います。本来の「上達したい!」という想いが、スコアを得るためのプレッシャーによって損なわれたのだと思います。もちろん彼は、決して安易に報酬に飛びつくような人間ではありません。ただお金を得るためにアルバイトをしているのではなく、彼の人生に必要な経験を得るために意思を持って指導に取り組んでいます。非常に慎重かつ勤勉で、とても信頼のおける人物です。そんな彼ですら、テストによって本来の心が損なわれつつあるのです。それほどに、テストの影響力は強いのです。

そして、この現象は彼や私にだけ起きた特殊なものではありません。テストによって内発的動機づけが損なわれることは、さまざまな研究で報告されています。ですので、子どもの内発的動機づけを育みたい場合、安易なテストの実施はとても危険です。そのテストが、勉強のプレッシャーを与える目的で実施されているものなら、その危険性はなお大きいと言えるでしょう。とはいえ、テストには有用な面もありますから、単に実施しないのが望ましいというわけではありません。

そのため、当塾ではテストの実施に細心の注意を払っています。自身の内なる想いでテストを受ける。そのことが、何らかのプレッシャーに邪魔されてしまわないよう、プレッシャーを感じさせないためのさまざまな工夫をしています。その結果、最初はテストを受けることを渋っていた生徒が進んで取り組むようになったり、もともと数学が大嫌いだった生徒が楽しそうに数学のテストに取り組むようになったりという変化は、今ではそう珍しいことではありません。

お子様はテストをどのように受け止めていますか?もしも、点数を取らなければ!などと、テストに強いプレッシャーを感じているのならば、お子様の心は傷ついているかもしれません。

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