合格した日にSくんは

生徒の成長

先日、高校3年生のSくんが志望校合格を勝ち取りました。Sくんは圧倒的に自律性が高い生徒の一人です。そして、他の自律性の高い生徒と同様、非常に質の高い学習をします。Sくんの学習行動で特徴的なのは、根気強く考えることと、学習時間をしっかり確保することです。

彼は根気強く考えます。彼はちょっと考えて分からないぐらいでは質問しません。自分にできることを全て試して、それでも分からないとなるとやっと質問します。だから、彼が質問するときには、試行錯誤の形跡が必ずあります。さらに、質問して教わったあとも、彼は考え続けます。「自分は本当に分かったのだろうか?」彼は疑いを持って考え続けます。そして、やはり納得できないと感じたならば、それが同じ問題であったとしても何度も質問します。教わった解き方をたどれるぐらいでは彼は満足しません。なぜそのように解くのかが本当に分かるまで、彼は考え続けるのです。

また、彼は学習時間をしっかり確保します。「今日いっぱい寝てしまったから、居残りして帰ってもいいですか?」中学生のときの彼は、ハードな運動部に所属していたために授業中に居眠りしてしまうこともしばしばでした。それでも、居眠りが長くなってしまった日には、自らの意思で居残りすることを選びました。高校生になってからの彼は、自習コースで学習を続けました。自習コースは授業がありませんので、サボることは簡単です。それでも彼は、自分で決めたルールをきっちり守って自習室での学習をずっとやり続けました。

彼のこのような学習は、心からの学習と言えるでしょう。では、彼が心からの学習をしようとするのはなぜでしょうか?

それは、彼自身の価値観に基づいて行動しているからです。彼は、考えることも学習時間を確保することも、誰にも強要されていません。彼自身の価値観に基づいて、彼の意思で行動しているのです。だから、自然と心からの学習をするのです。もしも考えることや時間確保することを強要されているならば、このような行動はまず生じません。大して考えもせずに「分かりません」と言ったり、教わったことを考えもせず丸呑みして分かったことにしたり、居眠りしていたにもかかわらず学習したことにしたり、自分のルールを簡単に曲げて自習室に行くことをサボったり。強要されているならば、そんな形だけの行動が生じていることでしょう。

では、彼にそのような価値観が育まれたのはなぜでしょうか?

そこには様々な要因があると思います。その中で最大かつ不可欠な要因があります。それは、自律性を支援する環境があることです。Sくんのご家庭には、彼の自律性を支援する環境がありました。Sくんの親御様は、Sくんの行動を統制(コントロール)しようとはされていませんでした。たとえSくんの考えが親御様の価値観にあわないものであったとしても、それでもSくんの考えを尊重しておられました。これは、自律性がどんどん育まれていく生徒のご家庭には必ず共通してあるものです。そんな自律性を支援する環境の中、Sくんの価値観は育まれたのだと思います。Sくんは自ら学習の価値を認め、自らの価値観に統合していったのだと思います。

彼の学習行動が彼の価値観から生じていることは、大学の合格発表の日にも強く感じました。「あ、先生。大学合格しました。」合格したにもかかわらず、彼の様子は普段とほとんど変わりませんでした。嬉しいようではありましたが、それほど大きな感情表現は見られませんでした。もしも彼が、本当は勉強したくはないが、大学に合格するためにガマンして勉強していたのであれば、もっと大きな喜びを表現したはずです。これほど彼が落ち着いているのは、大学に合格するために勉強してきたのではなく、自らの価値観に基づいて勉強してきたからなのです。その証拠に、彼はその日もそれまでと変わらず勉強に打ち込みました。合格発表のその日に、彼は黙々と5時間の自習をして教室を後にしました。

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