「前は見ただけで無理って思ってたけど、だいぶ分かるようになってきました!」
中学3年生のTくんが練習していたのは、彼がこれまでずっと苦手としてきた文章題でした。絵を書いたり、式を何度も作り直したり、なぜこの式ではいけないのかと質問したりしながら、一問一問にじっくりと取り組んでいます。そうする中で、コツのようなものをつかんだようでした。彼が苦手克服に取り組むのは、私たちがさせるからではありません。自分に必要だと考え、彼が自分の意思でそうするのです。彼の表情はとても明るく、分かることへの喜びを感じているようでした。
今は一生懸命に分かるための勉強をするTくんですが、もともとはそんな勉強をする生徒だったわけではありません。Tくんが塾に通い始めた中学1年生の当時、彼の勉強の目的は「分かること」ではなく、「終わらせること」にありました。分かるかどうかは彼にとってあまり重要なことではないようでした。とにかく進めて終わらせる。それが彼のやり方でした。だから、彼が絵を書いたり、式を作り直したりするようなことはありませんでした。見たことのない問題であればすぐに解き方を尋ね、単にそれを書き写して次に進みました。
なぜ彼の目的は終わらせることだったのでしょうか?実は、彼は幼稚園の頃からプリント学習をする教室に通っていたそうです。本当はやりたくないのに、やらなければならない。その教室で、そんな辛い状況が続いたそうです。その辛さを和らげるにはどうすれば良いのか?そんな状況の中、彼なりに見つけたやり方が、ただ終わらせることだったのでしょう。彼は決していい加減な行動をとっていたのではありません。当時の彼にとっては、それが最善のやり方だったのです。
では、彼がこのような状態を抜け出して、心から勉強に取り組むようになるには何が必要なのでしょうか?それは、やる気を育むことです。やる気が育つと、やらなければいけないからやるのではなく、彼自身の意思でやるようになります。そして、ただ形だけ終わらせる勉強は自然と消えていきます。やめさせなくても、勝手にしなくなるのです。私たちは親御様と協力して彼のやる気の育成に取り組みました。その結果、彼はじわじわと変化していきました。
彼が2年生だったある日、いつもはすぐに帰宅する彼が珍しく居残りをしていました。そして、なにやらブツブツと唱えています。彼がしていたのは、翌日の剣道の昇段試験に備えての勉強でした。以前の彼ならば、やるべきことをそっちのけで試験勉強をしていたに違いありません。しかし、彼はだんだんとそのようなことをしなくなりました。「今日は数学と社会を勉強する日なんだ。だから、剣道の試験対策は、やるべきことが終わってから居残りでやるんだ。」彼は自分でそう決めて取り組んだのです。
また、2年生の終わりに差し掛かったある日、彼は言いました。「先生、僕もうそろそろ受験生なので、勉強していないから点数が低いっていうのはダメだと思うんです。だから、居残りを増やしても良いですか?」あまりにも唐突な発言に、急にどうしたん!?と呆気にとられながらも、終わらせることばかりを考えていたTくんが、こんな発言をするまでに成長したのだと、とても嬉しく思いました。
彼のやる気が育つとともに、彼の勉強の目的は「終わらせること」から「分かること」に変わりました。今のTくんはもう、単に終わらせるようなことはしません。自分が分かるためにどうすれば良いのか。彼は、常にそう考えて勉強に取り組みます。
圧力をかけてさせるのか、「やろう!」と思えるようやる気を育てるのか、それぞれのやり方はかなり違います。私たちは後者を希望されるオカンの皆様と、お子様のやる気を育んでいきたいと考えています。