先生、音読の練習手伝ってほしい!
つい先日、中学1年生のYくんがそう言って英語の教科書を持ってきました。まだ習っていないところを、授業の前に読めるようにしておきたかったのだそうです。練習を始めたところ、すでに習っているはずの単語でも読めないものがたくさんありました。それでも投げ出そうとはせず、1つずつ丁寧に発音の仕方を確認したり何度も復唱したりして、懸命に練習に取り組みました。
これまでYくんは、英語の学習にはあまり前向きではありませんでした。ワーク類には取り組むものの、深く考えたりはせず、ただ作業として取り組んでいるようでした。それは「分かりたいから」というよりも、「しなければならないから」という理由が多くを占めていたからなのだと思います。また、それ以上の学習には取り組もうとはしませんでした。音読の大切さは以前から伝えていたものの、今はやりたくないとはっきりと意思表示もしていました。
そんなYくんが読めるようになりたいと、自分から意思表示をしました。今でも英語が楽しいとは思わないそうですし、やはりやりたくはないそうです。それにも関わらず、これまでとは異なる行動を起こしました。それはなぜでしょうか?
それは、心に大きな変化が生じているからです。今、Yくんの自律的な動機づけは急速に高まりつつあります。特に大きな変化があったのは、自律的な動機づけの一つである、同一化的調整です。10月の測定では、その動機づけが前回の測定よりも大幅に上がっていました。Yくんがこれまでと違う行動を起こしたのはそのためなのだと思います。
同一化的調整とは、「大切なことだからやる」・「将来のために必要だからやる」といった行動を生じる動機づけです。この動機づけが発達した生徒は、本当はやりたくないことであったとしても、その価値を認めたことならば懸命に取り組みます。ここ数年データを取りながら観察を続けてきた中で、その傾向はとてもはっきりと感じます。
この同一化的調整は、学業成績の向上に大きく関係することがわかっています。それは、懸命な学習行動を生じるからなのだと思います。「本当に分かったかな?」と理解を疑って自分で試したり、「もっとうまくできるようになるためにはどうしたら良いか?」とやり方を考えたり、詳しい人に意見を求めていろいろな考えを知ろうとしたりします。そんな行動を生じるのですから、学業成績の向上に大きく関係するのは、実に自然なことだと思います。
先生、今日もまたやりたい!
数日後、Yくんはまた声をかけてきました。そして、その日はもう最初からほとんど読めるようになっていました。「学校の授業もちゃんと聞いてん!」もっと身につけるためにはどうすれば良いか。Yくんなりに考えて、これまでとは異なるやり方を試してみたようです。そして、今後も音読練習を続けていくことを別の講師と約束したそうです。やはりYくんの一連の学習行動には、同一化的調整から生じた側面を強く感じました。
お子様の学習はいかがでしょうか?できるようになるための行動を起こそうとしていますか?もしそうでないならば、今はまだ自律的な動機づけが育まれていないのだと思います。自律的な動機づけが育まれたとき、お子様の学習行動は大きく変わります。それまで辛く苦しいもの・面倒でつまらないものであった勉強が、豊かな体験に変わります。そして、その自律的な動機づけが育ちやすい環境をつくることは、不可能なことではありません。