夏期講習が無事終わりました。講習は受験生の受講が中心ですが、受験生ではなくても自律性の十分に育った生徒は自らの意思で受講します。そんな生徒の一人がSくんです。(先月のSくんとは別の生徒です。)彼は中学2年生ですが、すでに自律性が大きく育っています。そのため、講習への参加を始め、多くの物事についてよく考えて自己決定します。彼のような自律性の育った生徒にはある特徴があります。それは学習の効率が非常に高いことです。
Sくんのそれは英語において特に顕著です。例えば彼は、授業ごとに200〜300個の単語をザッとテストします。一回あたりの個数を多くすることで、繰り返しの回数を稼いでいるのです。ただし、絶対に書けると確信している単語は飛ばします。彼が単語テストをするのは、記憶を定着させたり覚えるべき単語を見つけたりするためであって、自分が覚えていることに満足するためではないからです。ですから、絶対に書けるものはわざわざ書かないのです。
また、彼は質問のついでにこんなことをよく聞きます。「これは、どのレッスンで勉強したことですか?」そう聞くのは、もう一度教科書を読むためなのです。自分が疑問を持ったときにもう一度読むことで、より深く理解できる。彼はそのことを知っているのです。「これは、中1のレッスン6で勉強しましたよね。」彼が時々そんな発言をするのは、深くじっくりと教科書を読むことで、しっかりと心に刻んでいるからなのだと思います。
Sくんの学習の効率が高いのはなぜでしょうか?それは、彼自身が学習を改善しようとするからです。Sくんはテストが終わると必ず答案分析をします。私たちは最初にやり方を教えただけで、やりなさいなどとは言いませんが、いつも勝手にやって彼の方から分析結果を報告してくれます。そして、その分析結果から見出した課題を改善しようと学習の改善を考えるのです。そのような行動は、彼が学習の改善を真剣に考えている何よりの証だと思います。
また彼は最近、塾での英語学習の時間を減らし始めました。それは英語がやりたくなくなったからではありません。他の科目の学習に時間を割くためなのです。英語は短い時間で頭に入れられるようになったため、時間を他の科目にまわすことにしたのです。そして今は、数学の学習改善に力を入れて取り組んでいますし、つい先日は社会の勉強をいつもとは違う方法でやり始めました。このように、彼は自分で考えてどんどん改善しようとするのです。
Sくんが進んで改善に取り組むのはなぜでしょうか?それは、勉強の価値を受け入れているからだと思います。実は、Sくんはあまり勉強が好きではないそうです。Sくんにとって勉強は、決してやりたいことではないのです。ですから、テスト前以外は自宅学習をほとんどしないそうです。しかし、勉強の価値は大いに認めています。だからこそ、できるだけ時間をかけずに効率よく頭に入れられるよう、学習の改善に取り組むのだと思います。
このような行動はSくんに限りません。自律性が育つにつれて、生徒たちは責任ある学習行動をとるように変わっていきます。どのように学ぶのか、どの科目にどれだけの時間を割くのか、答案分析をするのか、講習を受講するのか。彼らはやりたくないことであっても、必要なことなら進んでやろうとします。どんどん力強い行動をとるよう育っていく生徒たちを見て、私はいつも思います。本当に効果的な学習指導とは、自律性を育てる指導なのだと。
ほとんどの人は、もっとも効果的な動機づけは本人の外から与えられるもの、熟達した達人が与えてくれるものと考えている。それを示すエピソードならいくらもある。天性の説得力を持つコーチが、おだてたり強制したり、はずかしめたり熱心に説いたりして、意気地のない選手をチャンピオンにする話。あるいは熱心な教師が、報酬と罰を巧みに用いて教室を統制し、小さな獣を従順な学習者にかえてしまう話、などなど。
ライアンと私が行った研究ではすべてが、それとは反対であった。外から動機づけられるよりも自分で自分を動機づけるほうが、創造性、責任感、健康な行動、変化の持続性といった点で優れていたのである。
エドワード・L・デシ、「人を伸ばす力」、P.12